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読書感想

ようやく普通の本の感想を書く気力が出てきたので書いてみる。

デイヴ・エガーズの『ザ・サークル』

 

ザ・サークル

ザ・サークル

 

 

 

「メイ、君も仲間になったからには、この会社の大原則を伝えたいと思う。僕らのここでの仕事も大切だけども、中でもとりわけ大切なのは、何よりも君がここで人間らしくいられることを強調していきたい。もちろん、ここは職場だけど、人の場でもあるべきだということ。それはつまりコミュニティを育てていくということだ。実際コミュニティでなければならないんだ。”コミュニティ第一”知っているだろうけど、これが我が社のスローガンだ。他にも”人が働く場所”という刻板を見たと思う。僕はこれを強調したい。とりわけ僕が気にかけている問題なんだ。僕らはからくり人形じゃない。ここは搾取工場でもない。僕らは同世代、いや全世代が生んだ最高の知性集団だ。だからこの場所でみんなの人間性に敬意を払うこと、みんなの意見を尊重すること、みんなの声に耳を傾けること……これは収益や株価や我が社のどんな試みとも同じくらい大切なんだ。陳腐な話に聞こえるだろうか?」

「ぜんぜん」メイはあわてて言った。「そんなことないです。だからわたしはここいにいるの。"コミュニティ第一”の考えに心から共感してます。アニーも働きはじめた時からずっとその話をわたしにしてきました。前の職場では、誰も真剣にコミュニケーションを取ろうとはしなかった。こことはあらゆる面で正反対だった」

ダンは、緑がところどころ覆う東の丘のほうへ目を向けた。「そういう話を聞くのはつらいよね。そのためにテクノロジーがあるんだから、コミュニケーションが決してないがしろにされてはいけないんだ。相互理解が達成できないということはあってはならないし、誤解があってもならない。それがここでの僕らの仕事だよ。会社の使命と言ってもよいコミュニケーション。相互理解。わかりやすさ……僕は寝ても覚めてもそのことを考えている」

 全てのインターネット上の物事を管理しようとする大企業「サークル」に入社した主人公メイ。そこではあらゆる情報 を透明化したような社会こそ理想みたいな思想があって…メイは最初こそそれに馴染めないものの段々とその思想を進めていくような社員となっていく。

 

”いつでもどこでも見られているかもしれないと知っている人が犯罪を起こすでしょうか?”だろうという是を盾にして。全世界を回る小型カメラ付きドローン、子供に埋め込むマイクロチップなどで全ての情報を世界中の人がいつでもどこでも見られるようにしようとする。SNSの相互監視、コミュニケーションなどの弊害を徹底的に覆い隠してそこにある要素は全て”理想のもの”とした社会を描こうとする作品。それはディストピアにしかならないと思う。

 

勿論この是を拒否するキャラ(メイの元恋人であるマーサー)も登場していくもののこういった意見を徹底的な異端として共同体から疎外していく。最終的にどのように

疎外されていくのはネタバレになるしまぁ…でもあれこそ”ネットの共同体社会を受け入れない人への共同体社会の人達がする仕打ち”の極地とも言える気がする。

以下マーサーの意見↓

君が関わっている仕事、それって結局全部ゴシップだよ。相手の見ていないところでうわさ話をする。レビューにコメントみたいなソーシャルメディアの大部分がそうさ。君の会社のツールがゴシップや噂や憶測を正当なメインストリームのコミュニケーションのレベルに高めたんだ。それに、超ダサすぎるよ

 

もしこのままの状態が続くならば、ふたつの社会ができ上がるだろう。少なくとも僕はそうなることを希望している。君たちが作り出そうとしている社会と、そうではない社会だ。君と君のお仲間どもは、喜んで、幸せいっぱい、絶え間ない監視の下、いつもお互いを眺めて、お互いにコメントいしながら、お互いにイイネ、ヤダネボタンをクリックしながら、ニコニコムカムカしながら、けれどそれ以上はさして何もせずに生きていくだろう。

 

そこで出来るのは”徹底した情報の透明化社会というユートピア”と見せかけた”異端者を排除していくSNS時代の『1984年』”であって、これはこの時期に読んでおかないと賞味期限が切れてしまうような傑作。

""Secrets are Lies", "sharing is caring," "privacy is theft."っていう作中のスローガンは『1984年』の"war is peace, freedom is slavery, ignorance is strength"パロディだよね。英語のがわかりやすい。