柳原白蓮「踏絵」がパブリックドメインになったので投稿してみるよ
いきてますよ。。更新するたび書いてる気がしますが
2018年になったので 柳原白蓮の著作がパブリックドメインになりました。
大正三大美人の一人です。
大正天皇と血が繋がる家筋ながら、少女期の幽閉生活、家が決めた結婚、家を飛び出した末の炭鉱王との結婚、駆け落ちして世間を大騒がせした結婚。。という三度の結婚と二度の離婚、吉原から逃げてきた森光子の救済etcといった感じの波乱万丈な苦難の連続のような彼女の生涯はとてもここで一言で紹介する事はできないほどの感じの人生でとりあえずwikiを貼っておきます。。。つい最近の朝ドラの『花子とアン』を見てた人なら葉山蓮子のモデルと言えばたぶん伝わります。。
『白蓮れんれん』もおもしろいから興味あったらよんでね(ステマ)
さてそんな柳原白蓮は詩集含めた著作をいくつか出していて現在も気軽に買えるものから古書価がかなり高くて手が出しにくいものまで様々です。というか買えるもののが少ない……。
そんな中でも『踏絵』が一番入手しやすいのでそれを基に全文書き写してみました。下に一気に投稿してます。。『踏絵』は白蓮25歳の時、伊藤伝右衛門と結婚している最中に綴った歌集でこの年代の女性っぽい弱々しさを敢えて歌にした感覚(こんな事言うとおこられる?)、宗教に救いを求めるもそれに完全に救われてる感じとは言えない感覚など現代でも通用しそうな感覚を歌にしたものがいくつかあるので好きな人は好きなはずです。。。
いちおうzipファイルも作ったのでこちらも、txtが中に入ってます。
https://www.axfc.net/u/3877431
※個人でやったので誤字脱字がたぶんきっとあるので気にせず楽しんでくれれば、誤字脱字が気になるなら本を買ってきちんと読みましょう。。
われはここに神はいづくましますや星のまたたき寂しき夜なり
われといふ小さきものを天地の中に生みふける不可思議おもふ
踏繪もてためさるる日の来しごとも歌反故いだき立てる火の前
瞬間は稲妻のごと来り去るその束の間をわれ人にして生く
有難き御經ぞとて示さるる白衣の人にすくせ問はばや
吾は知る強き百千の戀ゆゑに百千の敵は嬉しきものと
疑ひは吾なき後もとこしへに今宵の月はまとかなるやと
天地のいち大事なりわが胸の秘密の扉誰か開きね
思出に泣かじとこそを誓ひつれ雄々しきものとなどのたまはぬ
吾につらき記憶の一つ殺してむ力し有らばいざ救ひませ
君なくてあらむこの身か人はそも天地をはなれ長らふべきか
露まろぶ小笹の上の月影も命ありきと涙ながるる
閻浮堤かりそめの世は夢ながらかりそめならぬ戀もするかな
或時は王者の床も許さじとまきしかひなのこの冷たさよ
心こめて童貞の尼がおくりこし聖書の句にも慰まぬかな
けふの日もなほ呼吸(いき)するやふとしたるあやまちにより成りしこの軀
吾を恨む人の言傳たのまれし四國めぐりの船のかなしも
わが胸の王國の主を統べ給へ二心なきみ民なる吾
友とのみ思ふ心もあぢきなしふとして君が怖ぢ給ふとき
何といふ鐘のなりやう哀愁のこの身をめぐり夕暗に消ゆ
遙かなる君の戀ひしも大海の闇の奥より遠鳴すれば
月の輪よなど涙せぬさきの世のうらみの數のわが歌をきけ
わが魂は吾に背きて面見せず昨日も今日も寂しき日かな
骨肉は父と母にまかせ來ぬわが魂よ誰にかへさむ
追憶の帳のかげにまぼろしの人ふと入れて今日もながむる
妬みせて生みなす胸に廣々と人の戀をもよしとたゝへぬ
美しう君の背くといふ事もいつか覺えし悲しき誇
幾億の生命(いのち)の末に生まれたる二つの心そと並びけり
女どち戀によく似るかたらひの文なども來ぬありのすさびに
天地の命の果もかぎりあれや二つの心終りを知らぬ
月も日も吾等が爲の光とぞいひてし日より天地を知る
願はくはめぐる幾世の末かけてたゞわが魂の淸かれとこそ
人の子は始め終りを知らざりこの天地とこの脉の音と
船行けば一筋白き道のあり吾には續く悲しびのあと
死の前にたたずむ吾と思ふ時こころ静けく涙ながるる
わたつ海の底よりぬけし月の影大きかりしも忘れられぬかな
その時は門の小笹の風にゆれて夕ばえの空に思ふ人のありし
観世音寺みあかし暗う唯一人普門品よむ聲にぬかづく
月に吸はれ塩に滿干の思ひとやかのわたづみの久しかる戀
邪宗の子われにみとがめあればあれ神より人を敬ひおそる
昔見しやうなる雲はうつつなの思ひをのせていづくにか行く
今こそはあれわれ死なむ日は秋の野の花の如くにもあらなむ願
ふと思ふ眞白き馬に鞭うちて弱き世の人ひれふさしめば
罵りのしもともて打つ世の人よ知るや我が名はをみなとしいふ
なげくもの吾に來とおほけなく思ひあがれる心なりしか
月はめぐるこのわがふめる大地にわれてふもののありとし知るや
開かぬやう神の作りし謎の鍵さびにしままに終へむ吾が世か
筆をもて吾は歌はじわが魂と命をかけ歌生まむかも
幾億の年かも經たる太陽の齢を思ふ小さき人かな忘れむと君言ひまさばつらからむ忘れじといはばなほ悲しけむ
命あれば千萬年の一大事みまつるものか悲しき生よ(諒闇の御時)
あなかしこ光と色と形との生れきぬべき大日輪よ
君に會ひ泣くべき時を命にて秋の七度生きてゐしかな
あひ見てはすねても見たく別れては泣きてあはれみ乞はむとも思ふ
西の海さすらひて來し一年の吾を迎ふる都の灯(ひ)かな
ともすれば死ぬことなどを言い給う戀もつ人のねたましきかな
寝臺車窓かけ少し引きて見れば月は寂しく吾と共にくる
大天地(おおあめつち)小春美しきその中のちさき女はうれひに泣きぬ
小さくともわが目に入ればうつとうし數ならねども疎ましき人
女とて一度得たる憤り媚に黄金に代へらるべきか
後の世はあだともなれや今の世に死もゆるさゞる罪にてもよし
この心君に殉する雄々しさを吾とたたへて今日も暮しつ
狎れむには威ある姿のうとましさ十年の後のその悔のかげ
秋の日や君が越え行く瀬戸の海の夕なぎ思ふ濱邊に立てば
待つ人のあるが嬉しさ山超えて君にと急ぐたそがれの道
何を怨む何を悲しむ黑髪は夜半の寝覚めにさめざめと泣く
日輪の七色よりもいや奇しき心の彩を分ち兼ねつる
羽子板の押繪の君を添ぶしの春や昔のおぼろ夜の月
オリオンよ火星よ空にゐ並びて吾を護ると君に文かく
天人の五衰のなげき悲しくも寂滅といふも吾が世の掟
われ戀ふも御詞つらし女ならば憎き心も言ふすべ知らぬ
神や知る結ぼれ解けぬ吾が魂はそもいづこよりいづくへか行く
誰か似る鳴けようたへとあやさるる緋房の籠の美しき鳥
年經てば吾も名もなき墓とならむ筑紫のはての松の木かげに
誰にいひ誰に聞えむすべもなき涙の糧にわが歌は成る
七里行き同じ流の水ときくにわがそのかみも覺えて悲し
殊更に黑き花などかざしけるわが十六の涙の日記
わが足は大地につきてはなれ得ぬその身もてなほあくがるる空
命より命生れて幾かへり花より花も生れしものか
太陽はかせある如く明日もあらむそれよりかたき誓せよとや
何ものか飢ゑし心に晝も夜も涙ながらにあさる俤
恐ろしき誘惑の魔かなつかしみ神のみ聲か吾が名をし呼ぶ
一つ一つ吾が魂の緒の精をうけよ逝きての後のわが歌生きよ
この度は肥えて來よとの一言も涙なりけり人の精よ
よるべなき吾が心をばあざむきて今日もさながら暮らしけるはや
このところ永久(とは)の住家にあらざればとく行かむいざ天のあなたへ
若き日も美しき日も暮れ果てて戀の外なる悲しみぞ湧く
したたりのこの一雫數千年の祖の血汐の流るるやなほ
吾が心みどりの雨にとけ入りて小草の花も咲かばとし思ふ
成らばよし成らずばそれもよしと思ひ心易かる此頃の性
君と別れ今は筑紫の人となりて君なき里の梅の花見る
わが夢も靑葉若葉にとけ入りてかろき心の朝ぼらけかな
朝化粧五月となれば京紅の靑き光もなつかしきかな
しよざいなさあのすさびに君戀ふといはばやいかに魔する女よ
春雨や灯ともし頃の湯の里の行きかふ傘に眞玉つらねつ
こともなく終へむわが世の運命(さだめ)にも君を得し幸失ひし幸
久方の月見草咲く宮崎の濱の松原ただ一人行く
殘しこしだちの跡も山超えて君があたりに續くとおもひ
心よし絽蚊帳をなぶる風すこし麻のしとねによみがへる時
破れ鈴のやうにひゞかぬ君にして音を聞かむとし待てるさびしさ
秋来れば博多小女郎もなげきむ波の遠音に人の待たるる
御夢に入るわが影の淸かれと手燭とらせて鏡にむかふ
大わたつ海夕日のあかあかと燃ゆるさ中に身を投げてまし
寂しさのありのすさびに唯ひとり狂亂を舞ふ冷たき部屋に
ほの光りをぐらき胸にさし初めて美醜のかげのうつるも悲し
とこしへに君が名呼ばじ松風は袖の港に音を絶ゆる世も
わがために泣きます人の世にあらば死なむと思ふ今の今いま
何事か地異天變のあれかしと願はるるかなあぐみ果てては
今日まではわが命をばいたはりぬ後の見るべきき悔とも知らで
命をば今宵限りといふ時もつひにもだしてゆくべきさがか
女房のふところなれば鬼も棲むなどいふ詞ふと覺えけり
君に得し心んる故わが胸の王國の主よみ楯とならむ
美しき戀歌うたひ灯のかげに舞はましものを銀扇かな
頼みつる夢にもよべは會ひもせで置く霜白き冬の明方
大海をへだててここに語らひし美しき日よ久遠に生きよ
あゆめどもども足の進まざるかの夢に似て喘ぐにつらき
命死ぬ人のむすめに百年の後を誓へと言ひましし人
主なきみ空の星とたぐへては心和みぬへだてもなけれ
天地のもろもろよりも尊かる君が命と思ひ初めてき
よき歌は君と二人のいとし子を生まばや今日も幸多き日よ
思出は今入り殘る落日のあかあかしさのその色に似て
わが歌に吾と涙をそそぐ時またあらたなる悲しみぞ湧く
病み上がり落髪束にあまりぬれば黄楊の小櫛も泣くかとおもふ
天上の花の姿と思ひしはかりねのやどつのまぼろしの華
汝がための神の使命はいづくぞやいためる胸に今日もささやく
夢かあらぬうつつあらぬ遠方の雲のあなたに吾が名呼びます
恐ろしき毒矢のがれてそぞろにも涙こぼるるこの夕べかな
御姿もみ聲も聞かぬこの住家千里のをちといづれか遠き
憎き人の悲しきうはさふと聞きて吾にもわかぬ涙ながるる
悲しかれいよよつらかれ天地の運命(さだめ)呪ひて命果つべく
物事はゞ涙もあらむをくちなしの花に似たりと君はのたまふ
奈良の鹿は優しき目してもの古りし燈籠のかげに吾を見まもる
この世をば限と思ひ涙してありし昔の愚なるわれ
ゆくにあらず歸るにあらず居るにあらて生けるかこの身死せるかこの身
心憂きこと言はれても情ぞと笑みてるべき女のすくせ
うとくして在り經し人の今更に何戀しくて涙こぼるる
わが夢のとけて流れて久方の開け行く空に入るかとぞ思ふ
停車場の柳のみどり深くなればあづまの人の歸り來といふ
むづかしき人の世つらし夢にだに思ふが儘の吾となさしめ
何物も持たぬ此身の重荷ただ吾はわが身をいかにかすべき
心にはたたへてぞゐしその人を口にはいたくそしりてぞゐし
增鏡なれしかゞみよ十八の春も知るらむはたちの秋も
何故に誰がためにかも生れこしこの一事を七年おもふ
かくばかり靜かなる夜の天地に人の子などか涙多かる
とくとくと十やはたりは老いよかし若きうれひの然(さ)らば枯れなむ
思なく何も願はて日は暮れぬ何も望まで今宵はたぬる
石の床石の枕に旅寝してあるが如くも冷たさに泣く
誰がために落とす涙ぞ誰がためにほほゑむ吾ぞ女てふ名に
こし方の罪も消(け)ぬべき筆とりて御經うつす秋の夜なく
吾なくばわが世もあらじ人もあらじまして身を燒く思もあらじ
おだやかに過ごしし春よ秋の夜よ若かりし日の若きし胸
つむじ風吾をめぐりぬかかる日に花の姿も散り果つべきか
うもれ果てしわが半生をとぶらひぬかへらずなりし十六少女
冷ややかに枯木の如き僞りを人の道としいふべしやなほ
いくたりの浮れ男の膽を取る魔女とならむ美しさあれ
眠りさめて今日もはかなく生きむため僞りをいひ僞りをきく
王政は再びかへり十八の紅葉するころ吾は生れし
この心いつまで續く知らねども今日は樂しくただ嬉しけれ
宮崎のみやしろの前に神鳩と遊べる人を吾とおもはせ
不可思議はいづこより來て種蒔きし家根の上なる紅の花
雨降ればのそりのそりとひきがえる汝(なれ)もや思ふ天地の謎
かめの水吸ひつくし果て凋みける花にひたすら罪を悔いけり
天つ神よ君がいとし子世の波に浮き枕みせる吾しろしめすや
天と地と雲と水とにながめあかぬそれの如くも生と死を思ふ
ともかくも今日も事なく終へにきと生けるが儘に生きたるこの身
知らぬ人に今日をはじめてあひにける心地にむかふ十年見し人
何か罪つみや如何なるつひの世のさばきの前の冷たきむくろ
君をしもまどはしまつる人のあり悲しいかなや夢の國人
あけぼのの霞の中をわけわけて天がけり行く我が心かも
いつよりか吾が胸の戸の奥深くいつきまつらふその俤ぞ
いつの日か繪巻に見たる東福寺通天橋にちる紅葉かな
汽車の窓ゆ眺めつつあれば一つ消え二つ消えゆく都の灯(ひ)かな
泣きぬれて今來しものをあはれとも驚きもせであひ見る人よ
姉妹の中にかこみし火桶さへ冷たうなりて夜は更けにけり
折々は涙もまじる夜語りに小さき甥はただもだし居り
蹌蹌と今日もあゆめるこの身かな疲れ果てにしその後かげ
底知れぬ心のなやみ呪ふべき歌を綴れり吾といふ歌
命ありてここを再びふまじとの道をあゆめり遠國の旅
甲斐もなく吾とわが身をせめつつも鞭うちつつも蓑へにけり
野の中の小さき道に従ひて吾は行くなり行方も知らず
行きなれし麻布の寺の大公孫樹その木の下に落葉つむらむ
吾知らぬ涙ぞ落つる小雀の餌をあさる見て何か悲しき
しづかなる天地のうちにたゞ一人生れしやうの寂しさに泣く
なげきつつ芝居のやうに思ひけりあまりにつらき吾をあはれみ
花咲きぬ散りぬみのりぬこぼれぬと吾知らぬ間に日經ぬ月へぬ
毒の香たきて靜かに眠らばや小がめの花もくづるる夕べ
人の世の掟ならはしその前にいふよしもなく唯涙する
故知らず明日を思へばうなだるる胸の重さに心をののく
疑はし明日の運命(さだめ)は知らねども思へば今日の安かりしかな
女とはいとしがられて憎まれて妬まれてこそかひもあるらし
いふ事も答ふる事もわが外の世界に住みて今日も暮しつ
今日もまた髪ととのへて紅つけてただおとなしう暮らしけるかな
うつらうつら今日も暮しつ悲しかる歌のみを得てこの年も行く
わが胸の心の花の暖かう咲くかと思ふ春の夜の夢
ゆりかごの中に小さき身を置きて夢を乗せたる日もありしかな
今宵また御經寫す静けさに邪執のかげも消えて行くかな
雪の道君に會ひたさそゞろ來ぬといふ人あらば夢に來よかし
吾は強し怒りを胸にたたみつつ思ひなほして空ゑみもする
緋桃咲く夕べは戀し吾が夫も吾を妖婦と罵りし子も
一を二と讀むすべ知らず知らざれば智慧足らぬ子とかろしめらるる
見し人も見ざりし人も若き日の戀によく似る春の夜の夢
呪へど消えぬ思の憎さより心にかけて忘れ得ぬ人
靑葉若葉風にささやきなづきて日もあたたかき初夏の空
目閉づれば色も形もなき如く命絶えずば盡きぬ思か
香料をたきて祈らく思へらくたゞ今日の日も安かれとのみ
心なく引きし糸よりはらはらと編物とけて失せける形
幼子の如くに泣きてすねて見たや君にあはぬが悲しといひて
天上の陽の色戀うて向日葵は昨日の今日も後追うて咲く
吾が思ひ炎のしづくここにこりて歌ともなれとせめて祈らむ
妬みとや戀とやつひに定まらずふとあらはれてふと消ゆるかげ
何を待つ誰待つ時を待つとても心足る日のなしと知る知る
水の如流れ行く身のおもしろや浮べる月も散り來る花も
おとなしう身をまかせつる幾年は親を恨みし反逆者(もの)ぞ
あなうたて君きみたらで吾ばかり今日の此日もまめやかに居り
隅田川水鳥なけばありし日の俤うかぶ戀ならねど
紅き花床にうづめて三千里遠つ國なる夢の華ぞと
まどろみし夢の中なる一時にわが百年は過ぎこしものか
夢といふそは吾が生のすべてかやこころ足(た)りしもかの一夜ゆゑ
木枯は梢よりして吾が胸に吹けば亂るる寂しき日かな
野の末か海の果かも吾が魂は否否とのみ行方も知らず
夜来ては悲しき歌の教ふなる魔の姿かも君が文見る
み社の鳥居の上に石投げてのりものらずもはかなき吾が戀
かくれ家も一人は住まじふとしては幻に見ゆはなれ小鳥よ
殉教者の如くに清く美しく君に死なばや白百合の床
あすの日は爐に投げらるる運命(さだめ)もて野に咲くものを吾と思ひし
疑はれあぢきなき日の迫り來て吾が身いとしくなりまさりけり
そのかみの或日の夢をうつつにもかへさむとすや悲しき吾よ
昔より吾あらざりし其世より命ありきや鈴蘭の花
わが歌と涙とゆめに培ひしこの心根に花を咲かしめ
わが爲にまもる心と人の爲ゆるす心と君はありにき
願ひとは泉下の甦り吾がいたづきを守れとのこと
息絶ゆるその刹那この知るべくや死(しに)の趣戀のおもむき
八熱の地獄の底か安らけき吾が浄土かとえらぶに堪へぬ
このからだ土は十尋の底にして死にまさりたる喜びや知る
すべてのもの空しき名かや吾といふも吾より強き戀といふさへ
火に怖ぢよ水におぢよと世の中の恐ろしさのみ習ひつる吾
たはむれかはたや一時の出來心われにすべてを投げすてし人
あひしとふ事を悔ゆるにあらねども涙多きも君あるがため
いつの日の君が涙のゆめの跡今わがふめる道の邉の花
死にまさる智慧もて開く我が胸の重き扉を誰そ誰そたゝく
いつの日か人に心を盗まれてうつろとなりし身のおとろへそ
吾知らぬ思に育つはるの雨のび行く心人に知らぬな
ありし日のすべてを忘れわが外の人ゆるすなと君をこそ思へ
束の間をこの世に長きちぎりとも思ひきはめて命終へばや
斯くてなほ御疑ひのはれぬ日の吾が身いとしさ物狂ほしさ
いつの時いつの日までか君を待つこの心してありぬべき身かな
何ものか追はるる如く追ふ如くほしいままなら喜びをする
かかる日もまどひ知らぬ心かや審判(さばき)の日にも終りの日にも
神にしてゆるし給ふや時の間のその束間のめしひし心
知らざりし知りにき二なき美しき命のあたへ今ぞ知りにき
はかなかなる刹那刹那の喜びに生きてもゆくか衰への身の
けふの日も君より外にゆるさじのこの身尊み畏みてゐぬ
その如くいとやすやすと輿へたるものとや思ふ女のいのち
かの時のかの一言の忘れずば忘る期あらば戀よ呪はむ
いつはらぬその誠をば喜びつその誠をば憎しと思ふ
今を忘れてこし方忘れ後の世の思の中にわれ生きむかも
二十四時わかれて後のはるけさよ吾が生涯を待つ如わびし
くさむらの蟲に等しき戀すやとわが世の人の口さがなさよ
ひたひたと心は水にとけて行く大海原の波の行末
南洋の果物なども美しき食堂にして君をおもひぬ
三百理われといたはるおとろえの此身やうやうに都に入りぬ
求めても得られず遂に願はざるその事なりて足らぬ心
背教者それもせんなし生よりも死よりも重き荷を輿へられ
ベコニヤの花の眠ると君が來ます夕べのくるといづれか早き
美しき夢をぞ昨夜(よべ)は見たりしと日記のはしのうら寂しけれ
麻の雨楓もみぢのうすきよりうすぎ喜びふとたゝよひぬ
君と別れ一年ぶちの吾が顔は寂しからまし泣きて經ぬれば
壽量品うつしまつれば後の世にあはましものとみあかしの影
海見れば涙わりなくこぼれおつ今のこの身を歎くといはねど
わが胸の心のあるじとこしへに歸らずなりて衰へしかな
數千年の歴史の末に君といひ我といふもの生れこしかな
事なくばなきにつけてもいと寂しああわが心何をもとむる
わがこの身大盤石の上にありと思ひ死おのを心のゆるぎ
君をおきて尊きものゝ世になしといはばや足らむ吾にぬかづき
妙法蓮華経勸持品よむ昨日けふ現世のせめも忘られにける
めぐり來ねとくめぐり來ね天地の中の吾たまによろこびみつ日
一人のひとを思へば七たりの友みな憎む我を呪ひて
鴨川やわが來し方の過ぎし日と靜に流る今日も昨日も
わすれたるあてなきものを思ひ出でて求むとやうにいらだつ心
いつきます君としさへも戦はむ宿世をもちてなど生れこし
執着sるただ何となく思ひ入る人の子なれば理りは知らず
世の掟人のをしへもうべなはぬ心のつかれ神にゆかばや
暴れくるふこの雨風の心地よさわが心はたしゝまやぶらな
夕さればあかるき空の三日月のそのいとしさは吾もありきや
苔むせる墓の一つは幾世へしわがそのかみのわれにてありき
偶像も變化もわれはうやまはむ今この心いやす道あらば
太陽の東に出づるそれすらも疑ふむねに明日と契らじ
いつきまつる昔の人のたましひの聲もするかや御經誦せば
香のけぶりゆれてめぐりてほそぼそと消え行く方にすはるゝ
夢なりき彼の大事すら唯しばし時てふものゝあしきたはむれ
眞珠色の月の光になげかるゝ夕べとなりぬ今日も日くれて
美しき戀の牢獄(ひとや)の手ぐさりに昔の人もおとしゝなみだ
執念は白骨となりて足りぬべきその日を待つかいのちつきなば
かゝるおもひかゝる涙も女ゆゑやごとなき身のわが宿世ゆゑ
御(おん)胸に入る日もあるか罪の子の偽もののわが宿世かな
何ものももたなむものを女とや此身一つもわがものならぬ
生れかはり又こん世にもわれとならむ嬉しきにゑみ苦しきに泣き
吾に何の輿奪の權のありぬべきなど蝶の床の花をむしりし
佛者がいふ色即是空の悲しさよ女の前につれなの言や
今日もまた昨日のまゝの吾にして一昨日の涙かかわかぬ
つゝましう母に侍りてありし日の吾にもあらぬ今日のさまかな
眼とづれば吾身を圍む柩とも狭く冷たき中にをりけり
女とは世とは道とはうきつらき生ける限の謎にあらじか
清ければ女二十の若ければうき事のみぞふりつもるかな
わびぬれば名もなき者に手をつきてあやまらされし恐ろしの夢
さめざめと泣きてありにし部屋を出て事なきさまに紅茶をすゝる
あはれさあいたづらぶしの床の上に神のいさめの人おもふこと
つはものよわれ追ふ者をとらへよと命のきはも戦ふものか
百人の男の心破りなればこの悲しみも忘れはてむか
従ふか共にゆくかとまぎれては人の心をたづねてぞゆく
百年の後まで閉せ開くなと追憶の城は君こそ護りし
いくたりかめでにし後の一人ぞと吾を見出し其さびしさよ
君に待つそは暴君の行ひと知りつゝ猶も理りとする
風に鳴る葉ずれの音もさびしけれ逝きにし人の聲もまじるか
鶯は今をはじめの音の如く昔をおもふその日をおもふ
風もなく雲も動かず天地の寂寞(しゞま)の中の胸のとどろき
われをして斯く歌はしめ祈らしめ今日あらしむるくしき導
わがわれに輿へむとするは百年の後に生くべき物語ぶみ