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グーテンベルク21と著作権のお話。グレーゾーンでも利用しますか?しませんか?

グーテンベルク21という電子書籍専門の出版社があります。Amazonで検索するとわかりますが、著作権切れの翻訳物を扱っているように一般見えます。

Amazon.co.jp : グーテンベルク21

http://gutenberg21.co.jp/

でもよく考えるとオーウェルやA・E・ヴァンヴォクトの著作権が切れてるわけないよね?なんで売ってるの?大丈夫なの? という疑問から始まる著作権のお話です。結論から先にいうと「結構危ういグレーゾーンだけど判例がないのでなんともいえない」というもやもやした話になります。

これを理解するには「著者が死んで70年後にパブリックドメインになる」というよく知られた著作権の話から「翻訳権10年留保」というあまり効かない話を理解する必要があります。

ブラッドベリは歌う

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宇宙船ビーグル号の冒険

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翻訳権10年留保とは旧著作権法7条の

第七条 〔同前-翻訳権〕  著作権者原著作物発行のときより十年内に其の翻訳物を発行せざるときは其の翻訳権は消滅す
前項の期間内に著作権者其の保護を受けんとする国語の翻訳物を発行したるときは其の国語の翻訳権は消滅せず

という部分を指します。そしてこの条文は現行法附則8条でも有効とされます。

 第八条 この法律の施行前に発行された著作物については、旧法第七条及び第九条の規定は、なおその効力を有する。

 

これは「本が絶版にされた場合に、先にどこかが出版しているために次にだれも出せなくなる」事態などを防ぐためにあったものだと思いますし、旧法が改正されたのは昭和45年12月31日なので、昔のハヤカワ文庫なんかにある「翻訳権独占」みたいな表記は絶版して10年たったら意味がないというわけです(改正後の著作物の翻訳権は10年たっても消滅しません)

 

じゃあ翻訳権とはどこまでなのか?という解釈がグーテンベルク21の「なんか著作権切れてなさそうけど大丈夫なの?」という話になります

現行法27条は

e-Gov法令検索

第二十七条 著作者は、その著作物を翻訳し、編曲し、若しくは変形し、又は脚色し、映画化し、その他翻案する権利を専有する。
(二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)

 

となっておりこれだけだと「仮に旧法の効力があっても翻訳権は10年で切れたあとにもすでに翻訳したものの再利用」は当然認められないように読めます。しかしややこしいことに現行法8条は「旧法7条の効力はある」としています。つまり昭和45年12月31日以前に出版された著作物翻訳権に関しては旧法が適用されるという解釈であり。じゃあ旧法が適用される著作物で「消滅する翻訳権」とはなにか?という話になります。

翻訳する権利+翻訳物を利用する権利なのか。翻訳する権利だけなのか。

 

後者の解釈になると翻訳だけできて翻訳物を利用できないのは法律としておかしいということで翻訳権の消滅は翻訳する権利+翻訳物を利用する権利の両方が消滅するという解釈みたいです。そしてここでさらにややこしいことに旧法にはなかった公衆送信権の概念が出てきます。

 

現行法23条の

e-Gov法令検索

第二十三条 著作者は、その著作物について、公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。

 

は昭和45年にはなかった概念です。だって昭和45年にはインターネットなんてなかったんだから。だから「旧法で翻訳権が消滅する著作物なら公衆送信権もなくなるのでは?だって旧法にそんな規定はないんだし」という強引な解釈ができてしまうわけです。これが正しい解釈なのかどうかは判例がなくわからないので誰かが訴えて訴訟の結果が出るまでやりたいようにできる。というわけです。

更に問題なのはこれが仮に本当に正しい解釈だった場合に旧著作権法ができる期間の絶版翻訳著作物はパブリックドメインみたいな扱いになってしまう事で、出版社がいまだにグーテンベルク21を訴えてないのはここらへんもあるかと思います。訴訟したらグーテンベルク21に勝てるとは限らなく負けた場合のリスクはかなり高いです。いやまぁかなり黒に近いグレーとは思いますが……。

 

http://www.green.dti.ne.jp/ed-fuji/Gutenberg21.html

一応国書刊行会なんかはこの手法に抗議している旨を藤原編集室のHPで告知していますすが、肝心の謝罪は今HPみてもわからないし訴訟した上で裁判所から「これは違法だ」

というお墨付きを得たわけでもないので、グレーゾーンはグレーゾーンのままです。まぁ1回抗議されたら国書刊行会出版物はたとえ絶版でももう出版しないでしょうが。

 

いちおうグーテンベルク21の出版方法は漫画村などとは違い、いまのところは明確に違法行為と認定されてるわけでもなく、読む側にとってはKindle Unlimitedなどに入っているので手軽に読めるものもあるのでうれしいというのもあるはずです。だから利用するかどうかは気分の問題なわけですが、なぜ著作権が切れてそうにないものの出版ができているかは知っておいた方がいいのでは。というかんたんな記事でした。いやかんたんに書こうと思ったけどどうしてもこれくらいは説明いるよこれ……。

 

とりあえずこの話題についてもうちょっとくわしく書いてある記事と翻訳権についての本を紹介してこの話を終わります

🔭いわゆる「翻訳権10年留保」と電子書籍(園部正人) – 早稲田大学知的財産法制研究所[RCLIP]

翻訳権について

 

翻訳権の戦後史

翻訳権の戦後史

  • 作者:宮田 昇
  • 発売日: 1999/02/26
  • メディア: ハードカバー