好きなことをだらだら書くブログ
最近東方の事しか書いてない

Twitter

 

異世界転生ものの極北? 『信ぜざる者コブナント』のすすめ

 というわけで久しぶりの更新、東方同人の感想もそのうち再開しようと思いつつ読書感想から……。これ絶版なんだけども異世界転生ものが流行ってる今こそ復刊しないのかなぁとも思ったりする。

信ぜざる者コブナント 第1部 破滅の種子 上

信ぜざる者コブナント 第1部 破滅の種子 上

 
信ぜざる者コブナント 第1部 破滅の種子 下

信ぜざる者コブナント 第1部 破滅の種子 下

 
信ぜざる者コブナント 全6巻

信ぜざる者コブナント 全6巻

  • 作者: 
  • 出版社/メーカー: 評論社
  • 発売日: 1993/04
  • メディア: 単行本
 
信ぜざる者コブナント 第2部 邪悪な石の戦い 下

信ぜざる者コブナント 第2部 邪悪な石の戦い 下

 
信ぜざる者コブナント 第2部 邪悪な石の戦い 上

信ぜざる者コブナント 第2部 邪悪な石の戦い 上

 
信ぜざる者コブナント 第3部 たもたれた力 下

信ぜざる者コブナント 第3部 たもたれた力 下

 
信ぜざる者コブナント 第3部 たもたれた力 上

信ぜざる者コブナント 第3部 たもたれた力 上

 

 「あなたは地獄にいるわけだ」
舌で唇を濡らしコブナントは答えた。「いや、ちがう。ご老人これがあたりまえだ。人間とはこんなものだ。とるに足らない生きものだ」まるで癩者の掟を話しているみたいだなとかれは思った。とるに足りぬ不毛はこの生のはっきりした特長だ。「それがこの生のありようだ。わたしはほかのひとりよもものごとのとりようを割りきっているだけだ」
「その若さで──はやそんな辛らつなことを──」
コブナントは長いこと同情のことばをかけられたことがない。その声にこめられた同情のひびきがかれの感情を高ぶられせた。怒りが静まったが、のどはまだぎこちなくこわばっている。「おい、おい、ご老人」とかれはいった。「われわれが世界をつくったわけじゃないのだ。わたしたちがしなければならないのはその世界で生きることだよ、いずれにせよ、われわれは同じ舟にのっているわけだ」
「もちろん、そうしてきましたよ」
しかし、乞食はかれの返事を待たず、鼻歌で不気味な節まわしを歌いはじめた。そしてその一節を歌いおわるまでコブナントを立ち去らせなかった。そしてまた話しかけてきたときには、コブナントの意外な気弱さを察知したのか、その口調は攻撃的なものにかわっていた。
「ではなぜ自分をほろぼさないのか?」

 

「なぜわたしはいかねばならないのだ?わたしはかかわりはない。おまえの愛する国にはなんの関心もないのだ」

 

さて、世の中には異世界転生ものが流行ってるみたいですが、たぶんダメな主人公が無双するような話がたぶんテンプレであるんですよね(実はよくわかってない)。それに差をつけるとしたらダメな主人公を更にダメにするか、異世界での活躍を無双しないものに変えるかとかになるのでしょうが、この『信ぜざるものコブナント』はダメな主人公をすごく暗い方向にもっていった作品。

主人公が癩者(今は使えない言葉かもしれないけどこの本ではこの言葉なのでこれ使います)で町からハブられている。そしてその主人公が異世界で健康な身体を手に入れて「やったー!」となるかというとそんなことはない。なぜかというと異世界の自分は現実ではない夢だと思っているし、それを受け入れてしまったら「現実世界の自分は何だったんだ?」という事になってすべてを否定してしまうことになるから。

 

 

 かれは自分の足がだんだん強くなっていくのに気づいたし、手の傷はほとんどなおっていた。傷の痛みもほとんどなかった。それでも神経は依然として生きている。爪先でソックスの先をさぐることができたし、微風を指先に感じた。しかしこの説明できない生きている感覚が逆にかれを激高させる。それは健康と活力の証拠だ──それなしで生きようとみじめな長い訓練に歳月をついやしたのだ。それがいまおそろしい意味をもってかれに押し寄せてきている。それはかれの病気を現実に否定するように思われる。そう思うとかっと腹がたってくるのだ。

しかし、それはあり得ないことだ。あれかこれかだとかれは思う。その両方ともではあり得ない。自分は癩者だ。そして夢をみているのだ。それが事実なのだ。

その二者択一にもかれはがまんができない。もし夢をみているのなら、まだ正気を維持し、生きつづけ、たえられもする。しかし、もしこの国が現実であれば、かれの長い癩者としての苦難も夢になり、かれはすでに狂気であり、望みはないということになる。

どんな信念でもこれよりはましだ。どんな説明も受け付けない「健康」に屈服するより、少なくとも自分にはわかる正気を求めて戦うほうがましだ。

 だからこの本の主人公は異世界の方がどんな目にあおうとも、現実世界でどんな目に自分があおうとも現実世界の方を優先するし、それなのに異世界の方で人が死んでしまったらその喪失感を苦しんだりする。

このどうあろうとも異世界での活躍をすんなり受け入れようとしないこと、「それなら現実世界でどうやって癩者のコブナントが救われるのか?」という感じの事をどうなるか期待しつつ読む本。で事実最後にはきちんと終わるので、設定が暗い異世界転生ものを読みたい人なら読んでみてほしい本。特に「たもたれた力」で出てくる「目の前の現実世界の少女と危機に迫った異世界のどちらを救うか?」という話なんかそれだけでほかの話にもできそうで好き。

一応邦訳がここまでというだけでまだ続きはあるみたいですが、これはこれで6巻で綺麗に終わってます。

でも絶版なんですよねぇこれ。復刊しないのかな(最初にもいった)