ソローキン『23000』の感想
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『23000』はラストを語らずに感想を語れない作品なので前の2部作しか読んでない人、そもそも読んでない人はネタバレ注意
- 作者: ウラジーミルソローキン,Vladimir Sorokin,松下隆志
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2015/09/28
- メディア: 単行本
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- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2016/07/27
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『氷』→『ブロの道』→『23000』と原著の刊行順に翻訳されていったソローキンの三部作。『氷』は世界観説明の話、『ブロの道』は「兄弟団」誕生のエピソードみたいな話、『23000』は被害者(「空っぽのくるみ」)達と「兄弟団」達の話だよ。
金髪碧眼の人間達で構成された「兄弟団」が氷のハンマーで人間達を打ち抜いていって、生き残った人達を選ばれし者として新しい世界を作っていこうとするような過程が全体を通して描かれる。
「兄弟団」に選ばれなかった人間を「肉機械」、「肉機械」達が動かしている飛行機や自動車などを「鉄機械」ハンマーで叩かれても効果がなかった人達を「空っぽのくるみ」など、独特の表現を用いて奇妙な世界観も演出してる。これだけ説明するとわけのわからない話に見えるけども他のソローキン小説と比べるとかなり筋が通っていて読みやすくなっている。『ブロの道』なんかはほとんど一本道の筋だし。『23000』では目まぐるしく文体が変わるところがあるけど。
さて、『23000』の最後こそソローキンがこの3部作で描きたかったものだと思うけども、なんだかなぁ……と思ってしまった。『23000』では、兄弟団達が肉機械に向ける態度が前の2部作と明らかに変わっているんだよね。解説では作者自身の内面の変遷、みたいな解釈をしているけども、だとしたら「肉機械に対する態度が変わった理由」が
反映されてないのはおかしくないかな? 少なくとも自分は『氷』の時とはかなり融和的な態度になっていると思った。のにその変遷の理由が作品を読み進めても???になるんだよね。当初兄弟団が目指していた世界ってあんなラストで良かったの?
確かに最後はアダムとイヴを連想させる終わり方でもあるし、その前の展開は非常に神秘的な情景が描かれるわけでこの作品は一般的に神話と絡めて解釈しようとするような話っぽいですが、最後の最後でやったのは『ロマン』でやったメチャクチャなあの最後の展開の同じような気がしてくるんだよね。頑張って解釈しようとするとどつぼにはまるのでとりあえず「この作者の世界ってこういもんだよね」で済ませて納得せざるを得ないあの感じ。
だって、最後の情景に繋がる論理的説明が一切見いだせないもの。だからこそ神話的とも評価される作品だし、本人もそう評価されるのを意識して描いた作品なんだろうけども、それってメチャクチャな展開をすればいいってものでもないよねぇ。。
解釈放棄にも見えるこの読み方が一番しっくり来るんだけど他の人の感想どうなのかな。。兄弟団と肉機械のみんなははこれで救済されたの…?