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読書感想

リディア・デイヴィスの『分解する

 

分解する

分解する

 

 他の人々はごく自然にできているらしい社交上のやりとりがなぜ自分にはできあにのかと、ワシーリィは思い悩んだ。そしてそれを会得するために人々をつぶさに観察し、ある程度の成功をおさめた。それにしても、どうしてこれほどまでに苦労しなければならないのだろう?
ときおり彼は、狼に育てられて、つい最近人間社会の仲間入りをしたばかりの子供のような気分になることがあった。

 

「ワシーリィの生涯のためのスケッチ」

 

限界に達する瞬間がある。もうこの先には暗闇のほかには何もないというときが。すると現実ではない何かが救いを与えに現れる。ある意味、これは狂気に似ている。現実の何ものによっても救われない強靭は、現実でないものを信じるようになる。
現実のものがいつまでたっても彼を救ってくれない以上、彼はそれなしではいられないのだ。


「意識と無意識のあいだ──小さな男」

 

 

女の子は短い話を書いた。「でも、長い話だったらもっとよかったのに」と母親が行った。女の子は人形の家を作った。「でも、本物の家だったらもっとよかったのに」と母親が言った女の子は父親のために小さなクッションを作った。「でも、キルトのほうがずっと実用的じゃないかしら」と母親が言った。女の子は大きい穴を掘り、その中で眠った。「でも、永遠に眠ってしまえばもっとよかったのに」と母親が言った

 

「母親」

 リディア・デイヴィスの本はすごく短い文章の詰め合わせというスタイルで最初はかなりとっつきにくい。短い文章の中にストーリーがほとんど入ってないものまで含まれているし。でも、この本のスタイルに慣れると岸本佐知子の訳文も相まってすごく楽しめて読める。

日常生活が上手くいかない人達を悲観的に描くだけではなく、ちょっとコミカルに、ちょっと後味が悪い感じで描いていく文章ってのはなかなか見られない。「母親」みたいな短い作品は誰でも書けそうに見えてこの不気味な雰囲気は簡単に出せるものじゃない気がするし。

作中人物はすごく息苦しく動いているのに、この変化をつけた文章のおかげで決して読後感が悪いだけの本にはなってない。そんな作品集。