好きなことをだらだら書くブログ
最近東方の事しか書いてない

Twitter

 

「伯爵夫人」の感想

文芸誌掲載時点でネットにいろんな感想が転がる作家、という人はあまりいない。というイメージなんですが蓮實重彦の「伯爵夫人」は単行本化前にも結構感想が出てきましたね。三島由紀夫賞とる前から割と感想を見たのでみんななんだかんだ蓮實重彦好きでしょう?

 

 

 

さて、一部で話題になった蓮實重彦の三島由紀夫賞受賞後のインタビュー、文字だけでなく動画でも見るとこのインタビューの面白さが伝わってきます。怒り狂って文学賞受賞会見をするってのは田中慎弥もやってましたがこれはまた違う怒り方。まぁ蓮實重彦ならこうなるよねぇ……って想像通りだし絶対選考委員も「こんな反応になるだろうから蓮實先生に投票しよう!」って半分悪ふざけでやったと思ってます。同じレベルの受賞作が並んでた(他は議論の対象にもならなそうな新カラマーゾフ以外未読なので判断出来ないけど)としたら会見が面白くなりそうな人を選ぶに決まってる。知らない人はなんだこの爺さんってなっただろうけども、この人は昔からこういう発言をする人だよ? 特にこれは中身読まずに質問してるような記者たちについて怒ってる発言も垣間見えるし、実にまっとうな蓮實重彦の会見だと思いました。このまま芥川賞候補にして芥川賞にもしてあげましょう。きっともっと怒り狂うと思います。

 

www.huffingtonpost.jp

www.youtube.com

 

さて、インタビューについてはさておいて肝心の受賞作の感想。現時点では新潮4月号でしか読めないけども今月に単行本が出るのでそっちでも良さそう。自分にとってはこれが初めて読む蓮實重彦の小説。紹介するページ番号は雑誌版に準拠してます

 

新潮 2016年 04 月号 [雑誌]

新潮 2016年 04 月号 [雑誌]

 

 

伯爵夫人

伯爵夫人

 

 あらすじは帝大生の二郎が素性不明の「伯爵夫人」と接触していくうちに……、という体裁の小説で、伯爵夫人の語る真偽不明の体験や映画と従姉とのちょっとした体験でか性的な体験を知らない童貞の二郎がどんどんとそれを知っていく?課程、から「ポルノ小説」だと評価する人もネットを見た限りでは割といるけども、それ以上に作者の嫌らしさが詰まっている小説だと思う。

作者の嫌らしさを体現した部分として「この文章の意味が分からないならお前はこの作品を論ずる価値はないぞ!」みたいな意思が伝わってくる文章(”ひたすら文士を気取るあの虚弱児童”といった文章が入っているあの部分は三島由紀夫を指しているはずだけどもその注釈は一切存在しない)がちらほら、というかかなりの部分あって、そういった部分が全部分かってない(17ページの”活動小屋のスクリーンでは、女のハイヒールが舗石の隙間に挟まり、抱擁をやめようとしない男の足に合図を送りそびれるユーモラスな展開で微笑を誘っていた”から始まる映画ネタにも元ネタがあるはずだけどもわからなかった)絶対に元ネタ無学な自分は本当はこの作品を語るべきではないんだけども、まぁ折角読んだんだしねぇ。

 

とりあえず印象に残るのはやっぱり性的な事柄の部分、特に19ページの伯爵夫人が主人公を叱責する部分(”やたら青くせえ魔羅、熟れたまんこ”などという言葉を平気で使い出す)、87ページの伯爵夫人が………(ここはネタバレになるので省略)する部分が印象的。この印象的になったところだけを抽出して感想を書くならそりゃあまぁ「元東大総長が書いた気取ったポルノ小説」ってなるだろうけども、それだけじゃあ一体なぜ太平洋戦争前の日本の話にしたのか、伯爵夫人の正体は何だったのかって事を無視してしまうのできっとよくないよね。。

太平洋戦争前にしたのはきっとこの時代の映画について語りたかったんだし、この作品そのものを「この時代の映画っぽく」雰囲気にしたかったから、んだと思うけども実際はどうなんだろう。ばふりばふり、という古めかしい(感じの)擬音表現とか色々な点でこの時代の小津安二郎映画が好きな人なら「伯爵夫人」を見てノスタルジックを感じる、ような気がしなくもないんだけど……。とはいえ、そんな元ネタがちっとも分からない自分にとっては昭和的なポルノ小説。中年婦人と青臭い学生と若い女性が織り成す性的な話にしかやっぱり見えなかったりする。。

 

結局「ポルノ小説」だったのかなぁこれ。細かい文章を読み砕いてく楽しさ、元ネタを探す楽しさはある小説だけども、伯爵夫人の正体が明らかになる部分ですら「どこか卑猥だなぁ」って部分が抜けないし、謎めいた部分が残っている前半の伯爵夫人ですらサスペンス要素ではなく艶かしさが何故かあるし。

あるいはいろいろな元ネタが注釈もなしに随所に散りばめられてるあたり「知らないなら自分で調べてから読み直しなさい」、という蓮實重彦なりの教養小説なのかもしれない……。確かにもうちょっと元ネタを知った上で読みたいってなったしね……。

 

元ネタが全部はっきり分かる人の感想を読みたいねこれ。。