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読書感想

ヴァーノン・リーの『教皇ヒュアキントス』

 

教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集

教皇ヒュアキントス ヴァーノン・リー幻想小説集

 

 

 

宗教をテーマにしたり、語り手がまず冒頭に現れたり、普段目にしない単語が使われたりする古風な枠組みの短編、あらすじだけ書くとなんかありきたりな話。それでもほとんどの短編が面白い。そんな幻想文学の短篇集。

一編一編感想を書いてみるけどもやっぱりあらすじでまとめるのも野暮な気がする。

 

「永遠の愛」

悪女の幽霊にそそのかされる男の話。これどっかで読んだ気が…って思ったら『世界幻想文学大系35 英国ロマン派幻想集』に載ってたやつだった。最後がどうなるかはもう大体途中で想像できるのにそれが面白い不思議

 
教皇ヒュアキントス」

ヴァーノン・リー版『ヨブ記』みたいな話。『ヨブ記』とは逆の展開になっているものの悪魔が善人を陥れようとする枠組みは同じ。個人的には『ヨブ記』が聖書の中での最高傑作だと思っているのでそれに比べると…とどうしても思ってしまうもののこれが面白くないわけでもないんだよね。

この短篇集の中でも一番キリスト教的なイメージが強い作品でそれが面白い。


「婚礼の櫃」

報われない恋愛の話。貴族の気まぐれにより新妻を奪われる男の復讐の話、ってわけでもないか。他の話は救いがあるのにこれだけ救いがない。


「マダム・クラシンスカの伝説」

なんかあんまり印象がない…


「ディオネア」

ギリシャ神話が元になっている話とキリスト教が元になっている話がこの短篇集には収録されていて、こっちはギリシャ神話の方、らしい(解説見る限り)。ギリシャ神話はさっぱりなので意味がわからない部分も読んでいる時結構あった作品だけど、悪女ディオネアが起こす厄災みたいな短編として読んでた。


「聖エウダイモンとオレンジの樹」 

一番の聖人は三人の中で誰か?みたいな話。もう最初から最後まで”こういう話になるだろうな”って思っていてそのまま進む面白さ

 

「人形」

とある人形にまつわる幻想的な短編。悲恋の話でもあるような(悲恋じゃない話がこの短篇集にはない気もするけど)短いのに印象的。


「幻影の恋人」 

ある夫婦の肖像画を描きにいった男が語り手となって、夫婦と幽霊(あるいは幻影)の三角関係が描かれる作品。途中まではほとんど幻想的な要素が少ないものの最後の方に悲劇まで到達するところは好き。


「悪魔の歌声」

歌声から逃れられない男の話。最後まで逃れられないこの話は一番怪奇小説っぽい気がしていい。


「七懐剣の聖母」

唯一スペインを題材にしている作品。ドンファンが主人公の話のものの自分のドンファンのイメージとはなんか違った方向へと話が進んでいく。ここでも語り手が登場していくような枠組みの話になっているもののこの作品だけは”最後の最後に語り手が登場するのは余計なのでは”と思ってしまった。 


フランドルのマルシュアス」

タイトルからしてネタバレっぽいもののそこに至るまでの過程が面白い。謎めいた動きをするキリストの磔像にまつわる話。最後の最後の描写は唐突だと思ったものの訳者解説を読んでなんか納得…いや…でもあれは唐突だよね


「アルベリック王子と蛇女」

この短篇集の中で一番好きな話。不老の王、蛇女に恋した追放される王子、色々と策略を巡らす家臣たち。

最後の最後まで誰も幸せになる事もなく終わるこの短編の世界がすごい閉鎖的でいいと思った。


「顔のない女神」

これは解説読まないと意味が通じない作品なのでは…分かる人は分かるだろうけどもさ。
「神々と騎士タンホイザー

だからギリシャ神話はわからないって…ってなってしまった。でもこの短篇集の中で一番コメディ色が強いかも。

 

Twitterでは海外文学クラスタの人が割とよくこの本の感想なりをつぶやいていた時期があって、”ひょっとしてものすごい売れているのでは”と錯覚しそうになるよね。実際どれだけ売れたのだろう。

あと結構元ネタがある作品があるっぽくて解説でそれなりに触れられているし別にわからなくてもあまり問題がない作品が多いものの、その元ネタに触れたくなる短篇集だったり。この本を読んでなんかヤコブス・デ・ウォラギネの『黄金伝説』を読み返したくなったけどあれ全部読むとかなり長いんだよね…。